第7の疑問 - 葛レク
第7の疑問






 『飯ごう炊さん』での最大の疑問は、「出来上がった飯ごう

を逆さまにしてご飯を蒸らす」でした。体験的に逆さまにした

飯ごうと逆さまにしなかった飯ごうのご飯を比べても味に差が

ないことがわかっています。

しかし、ほとんどの人が、また
キャンプ指導者でさえも出来上が
った飯ごうは逆さまにすることに
よって中のご飯を蒸らすと信じて
います。その理由として、

@飯ごうを逆さまにすることに
より残った水分を落とす。
A暖かい水蒸気は、上に上がる
ので飯ごう内の蒸気を上下で均一
にするために逆さまにする。
B飯ごうを逆さまにし、ご飯を
落とし底の部分に空洞を作り底に
蒸気を送り込むことによりご飯が
美味しく蒸れる。
C熱いうちに紙や草で飯ごうの底
についたススをこすりつけて落と
しておく飯ごうを洗うときに楽で
ある

 等々数多くのものがありました。
 しかし、飯ごうを逆さまにしなくとも美味しいご飯はでき
るし、まして、お釜や電気炊飯器でご飯が出来たからといって
逆さまにしたいという話も聞いていない。でも多くの人は出来
上がった飯ごうを逆さまにしている。
 この「出来上がった飯ごうは逆さまにして蒸らす」の理由に
ついてキャンプ指導者や飯ごう炊さんの体験者に聞いて回った
が、ほとんど先に上げた理由であった。しかし、その中に戦時
中軍隊で『飯ごう炊さん』を指導していたと言う方の説明を聞
くことができました。

 その説明では、「出来上がった飯ごうを逆さまにすることは
指導していた」とのことでした。しかし、その理由は、これま
でに聞いたことのなかった
「冬の北方戦線で飯ごう炊さん
をする場合に、一つのかまどで
次々に飯ごうでご飯を炊いてい
きます。そのために出来上がった
飯ごうはかまどから離れたところ
に置いてご飯を蒸らすしかありま
せん。冬の北方戦線では地面が
凍っているためそのまま置くと
ご飯が急激に冷えてしまうため芯
のあるご飯になってしまいます。
そのために、飯ごうを逆さまに
して凍った地面から出来上がった
ご飯を極力離すようにして保温す
る。」とのことでした。

又、別の証言から「飯ごう」は、日露戦争で使用されていた
のではないかとの憶測が出てきました。飯ごうが、日清・日露
戦争で使用され始めたと仮定すると先の説明の通りの理由で
飯ごうは、出来上がったら逆さまにするものと指導されてきた
はずです。


 また、逆さまにした飯盒の底をマキで叩くことについては、

正当と思える理由が見当たりませんでした。先出の軍隊で飯

ごうを指導した方でも「指導した覚えはないし、その理由も

判らない」とのことでした。



 底を叩いている方では、先のBの理由「飯ごうを逆さまにし、
ご飯を落とし底の部分に空洞を作りそこに蒸気を送り込むこと

によりご飯が美味しく蒸れる。」と信じている場合が多く、

「飯ごうを逆さまにして、ご飯を下に落とすためにマキで叩く」
ことを理由にしています。確かに説得力がある説明となってい

ますが、寒冷地での保温のために飯ごうを逆さまにすることを

正解とする理論からは、誤った行為であるとされます。



 また、飯ごう炊さんを最初に体験したのが軍隊での訓練であ

ったと仮定した場合、訓練中にブラブラしているわけに行かない
ため何らかの行動を見せておかなければとの心理から飯ごうを何
となく叩いていたのではないかと推測されます。そしてその理由
については後から付けられたのではないかとも思われます。



 この疑問では、出来上がった飯ごうは保温を保てば良いが正解
であり、保温さえ保てれば飯ごうを逆さまにする必要は全くない
ものと言えます。まして底を叩くことの理由ついては憶測の域を
脱しえません。